我々は植物学者である。
植物の形態学、心理学、生態学と各々の研究分野は枝分かれしているが、様々な
領域からの蒐集・分類を通して、儚くそして力強い草木の幻影を追い求め、また
その根、枝葉が編み上げる「世界樹」をも夢見るのである。
温室の中で薔薇の芳香に噎び、また時にはメスを片手に採集した植物の細胞に分
け入る。机の上には整理されていない植物標本がリンネの分類表とともにある。
寝台の枕元にはオウィディウスの「転身物語」のダフネの頁が開かれたままでも
ある。
混沌とした密林、生殖器としての花、地を這う苔類、はたまたアールヌーボーの
渦巻曲線。形態から神話まで、植物はその様相を千変万化させながら我々の内な
る空間に広がる。
キャンヴァスと謂う標本箱を手に、「植物のイマージュ」の真相を探る、我々は
「似非植物学者」である。
【建石修志】