水丸さんの訃報を受けてから、しばらくは雑誌やweb上に水丸さんの顏が出ていると見る事ができませんでしたが、やっと気持も落ち着き、水丸さんのお顏とも少しずつ対面できる様になって参りました。
そして急な出来事に一番たいへんな思いをされていたますみ夫人とも、仕事の部分も含むお話しができ、皆様にも今後の計画等をご報告できることとなりました。
まず、五月に毎年開催され、今年で12回目を迎える和田誠さんとのコラボレーション展は、予定通りに開催させて頂く事ができます。一時は中止も止むなしと思っておりましたが、和田さんがコラボレーションの水丸さんの方の画面エリアにも水丸さんの気持になって描いて下さるとの事です。
和田さんのお気持、心意気、そして作業のたいへんさを考えますと、感謝の意にたえません。
このコラボレーション展は、最初は一度限りの予定でしたが、いつの間にかこのギャラリーの初夏五月の風物詩の様な存在となり、季節が近づくにつれ、もうそろそろですねと、皆に愛され待望される展覧会でした。
毎年、作品の搬入が終るとお二人でビールを飲みながら楽しそうにお話しされる事が常で、和田さんはお兄さん、水丸さんは弟の役柄、といった感じの会話が思い起こされます。ちょっと内緒話風だったり、本音を柔らかく包んだスパイシーな話等、もうあの楽し気な、お二人の含羞に満ちた宝物の様な会話を聞くことができない、と思いますと、実現することのない失われてしまったことの淋しさが胸に響きます。
また、ギャラリーでは2015年の1月、水丸さんの絵と俳句を組み合わせ表装した俳画の展覧会を計画しておりましたがそれは適わぬ事となりました。水丸さんの掛け軸はことのほか魅力的で、2013年1月に発表した際にも大好評、皆様のご希望でもありましたが、掛け軸に変わるテーマでの展覧会の開催を現在模索中です。そして来年のお正月は水丸さんの懐かしい作品と共に、新しい顏をお見せできる様、努力致す所存でおります。
今でも、最初に画廊に水丸さんがいらっしゃった時の事を思い出します。当時の小さなおままごとの様な空間だったスペースユイに、お散歩がてらふらっと立ち寄ったという風情でしたが、その後様々な場面で水丸さんに助けられ応援され画廊が成長できたと思っております。そのようなスタートで始まった水丸さんとの関わりが、それから30年以上も継続し、当たり前の様に仕事をさせて頂いて参りましたが、今思いますと、奇跡の様に感じられてなりません。
30数年間の間に作ったシルクスクリーン作品が、いつの間にか200点以上の点数となりました。たいせつに保存し管理させて頂きたいと思っております。
水丸さんが初めて画廊に来て下さった直後から、ご夫人のますみさんとも懇意にさせて頂くようになりました。ますみさんは油彩画家で、現在は具象と抽象の間の感覚で素晴らしい作品を発表されておりますが、大胆な構成、表現方法は、無意識のうちに水丸さんに大きな影響を与えたという事もあったのではないかと思っております。まだお二人と知り合ったばかりの頃、水丸さんの作品と、ますみさんの作品空間がふっと意識の中で重なった日の事が思い出されます。水丸作品には、最良な意味での女性的な大らかなエッセンスが存在すると感じています。
鎌倉のアトリエで、水丸さんの身体に異変が起る少し前の時間には、ますみさんと虎屋の羊羹と抹茶でくつろがれていた様子等を伺いますと、本当に予期せぬ出来事だったのだと案じられます。
まだまだいろいろな水丸さんの思い出を書きたいのですが、「木村、余計な事を言ってはだめだよ」という水丸さんの声が聞こえて来ます。
言葉の枠の中になんて収まらない水丸さんでした。絵も画面の中で完結させようとは思っていなかった様に感じます。
酒豪の水丸さんは、ある日酔っぱらって転んで顏が傷だらけ、おでこから血が出て真っ赤になってしまったとお話しされていた事を思い出します。普段ダンディーな水丸さんがそんな失敗談を嬉しそうに話されるのを笑いながら伺っておりましたが、いつまでも酒豪の水丸さんのことが、その時から少しだけ気にかかっておりました。
大学の先輩でもある水丸さんとは、最初の出会いからずーっと先輩後輩の間柄で、その距離感は、変わる事がありませんでした。そして取り立てて意識する事はなかったけれど、何才になっても変わらなかったその距離感がとても大切なものだったと心から感じます。
根っからの都会人の水丸さんは、その服装も精神の成り立ちも心の底からおしゃれで、しかもそのことを感じさせない美意識は、確固たるものでした。ちょっと野暮天の後輩に対し、「もうちょっと先輩を見習って格好良くやれよ。」というメッセージを、今、水丸さんから届けられている気がしています。
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