小山春子さんは、真言宗の僧侶であるご主人と、港区に在る寺院での日々のお仕事にも従事していらっしゃいます。
作品には、そのような背景から生まれるのでしょうか、独特な魂の世界が感じられます。
麻などのさっぱりと清しい白や生成りの生地に、白の刺繍糸で表現された静かなモチーフが優しく大らかに浮かび上がります。所々に集まり縫い付けられたビーズの集合体が光に反射してきらめき、糸や布地との質感の対比を美しいハーモニーで奏でているかのようです。
白地とは逆に黒地を生かした夜景を描いた作品も大人気でした。
布地に刺した糸やビーズでしか表現できないかも知れない独特な質感が、夜景という状景を完成度の高い作品へと作り上げました。
日常の楽しい物たちや風景、そして形而上学的な世界まで、描かれるモチーフは多岐にわたりますが、小山さんの個性がトータルに反映されていると思います。
刺繍等の手仕事的な作業は、編み物などにも共通すると感じられますが、精神の衛生にも貢献する部分があるのではないでしょうか。
作者の制作時の気持ちが伝わるかのように、作品全体から穏やかな、観る者の気持ちを緩める気配が伝わって参ります。
小山さんの多様な貌を持つ作品が、今年もどんどん洗練されていらっしゃる事を感じ、更に驚かされたい!という気分が生じております。
この度は、急なお願いにも関わらず完成度の高い山崎杉夫さん、信濃八太郎さんの二人展「僕の町、僕の場所」を開催する事ができ、快くお引き受け下さったお二人には本当に感謝致しております。
安西水丸さんの教え子だった山崎さんと信濃さんの展示は、現在のコロナ禍の中、海外に滞在のため個展開催が困難になった方の会期でした。
今回、とても水丸さんの存在が色濃く感じられ、懐かしい思いにかられた一週間でした。
山崎さんの大胆かつ繊細にデフォルメされた構図を透明感のある鮮やかな色彩で表現された作品と、対をなす信濃さんのしみじみとした感情を紡いだ暮らしの場である街や馴染みの空間の描写、そんなお二人の絶妙なコンビネーションが楽しく味わい深い展覧会でした。作品に添えられた万年筆で書かれた文章や文字からもお二人の個性が感じられ、お人柄が偲ばれました。
今回はお二人に、文章をお寄せ頂きましたのでご紹介させて頂きますね。
Sugio Yamazaki
「僕の町、僕の場所」というタイトルや絵と文を一緒に展示するというアイデアは信濃くんからの提案でした。いくつかアイデアを出し合ったもののこれが今の気分には一番しっくりくるなと感じ即決しました。遠出が難しい今、自分の町を見直すいい機会になりました。身近すぎて見落としていた景色を発見したり、忘れていた昔の出来事を思い出してみたりと何か絵日記でもつけるような感覚で描きました。
また、グループ展は個展とは違う難しさがあると常々思っているのですが、今回は違和感なく展示できました。 先に述べた展示テーマや文も書くこと以外、事前に特に細かい相談はしなかったのですけど、展示枚数や作品サイズもバランス良く会場に収まりました。これはやはり付き合いが長いせいかもしれませんね。伊達に20数年間、飲み続けてきたわけではないんだなと確信しました。
そして、数年前までそうした酒席の真ん中にはいつも恩師である安西水丸先生がいました。
先生ゆかりのギャラリーで展覧会ができることは僕たちにとっては特別なことでした。会期中にはオーナーの木村さんと先生の思い出話をしたり、信濃くんと共に、先生が馴染みだった寿司屋で〆張鶴を飲みました。最終日に大雨が降ってきたのも、雨男だった先生が労いに来てくれたものだと信じています 笑
生前、水丸先生は人とのご縁をとても大切にしていました。大きな会社の社長でも僕たちのような名も知れぬ雑草のような教え子に対しても常に丁寧に公平に、そして楽しそうに接していた姿が印象的でした。考えてみればこの二人展もいろいろなご縁が繋がって実現した訳ですが、元を辿ってみれば水丸先生に行きつくように思います。未だお世話になりっぱなしの信濃と山崎ですが、これからも人とのご縁を大切に、一枚一枚楽しんで絵を描いていこうとあらためて感じさせてもらった貴重な6日間になりました。 山崎杉夫
始まってしまえばあっという間でしたが、初めての場所で展示させていただくことで新たな出会いもあり、とても貴重な時間となりました。機会を与えてくださったスペースYUIの木村さん、高橋さん、そして連日秋雨のなかご来場くださったみなさまに改めて御礼申し上げます。どうもありがとうございました。言いたいことはぜんぶ山崎さんが書いてくださっているので繰り返しませんが、僕らにとって月に一度安西先生とお会いする時間は、楽しみな一方、何より緊張する時間でもありました。話題豊富な先生の前に「手ぶら」で臨むことなどできませんので、そのために一ヶ月間、本を読んだり、映画を見たり、展覧会に出かけたり、新しい飲み屋やカレー屋を探したり(山崎さんなんて茶道まで始めたり!)して過ごす。そんな準備の時間が何年も続いたことが、僕たちふたりにとって今に生きる財産となっていることを、今回のテーマで描きながら改めて痛感した次第です。
そして山崎さんとお会いすると、あの頃の、馴れ合いを嫌う先生を前にしたときの二人の緊張感を、すぐ取り戻すことが出来、そういう意味でも自分にとって貴重な二人展となりました。山崎さんにも御礼申し上げます。
今回搬入時に、何もかかっていない白い壁を前にして、安西水丸先生と和田誠さんが毎度二人展のオープニングの際に「作品解説」と称して楽しそうに掛け合いをされていたことを思い出しました。そんな壁に自分たちの作品を展示できた喜びを胸に、また次に向かってまいりたいと思います。
信濃八太郎
Hattaro Shinano
2018年の「Waltz ~色と形~」、2019年の「OVAL ーひとつの宇宙ー」 、そして今年2020年の「千紫万紅」と、卯月俊光さんの作品展のタイトルです。
卯月俊光さんの作品の中にはOVAL=楕円形のモチーフが、以前から用いられておりましたが、今年の展覧会では、OVALの形の花びらを持った花々が「千紫万紅」、それぞれの彩りで個性的に魅力的に咲き誇っておりました。
卯月さんはずっと毎年個展を開催して下さっておりますが、2018年の「Waltz ~色と形~ 」頃から、何かから解き放たれたような空気感が感じられます。
そして今年の作品は、2019年の「OVAL ーひとつの宇宙ー」から連なる「千紫万紅」。2020年のOVALの花びらの色彩の饗宴が素晴らしく、一枚一枚の作品の花々の形も色も、ハーモニーがとても魅力的でした。
まるで卯月さんの確立した作品スタイルの中で、それぞれの花たちの自由な心が息づいている様に見えました。 とは言え、前向きな姿勢を失わずにご自分の世界観を構築し続けていくこと、その精神を維持し続けていくことが、困難をともなわずにはいられないという事は想像に難くありません。 湧き上がる新しく自由な心で、たくさんの見る人々に驚きを与え続けて下さり、卯月さんご自身の中にも更にフレッシュなエネルギーが生まれて、きっと大きな循環が表出すると感じております。
長谷川洋子さんの、スペースユイでは2度目の展覧会が開催されました。
今年も、丁寧に美しく仕上げられた沢山の作品がギャラリー空間いっぱいに展示され、好評を博しました。
長谷川洋子さんの作品は、糸やビンテージの布やビーズ、石など多くの素材を使って創られており、布をカットし、貼り付けながらビーズを縫い付けるという感覚のリズムが、絵の具を塗り重ねて表現していくペインティングの作業に重なって見えます。
絵の具と布や糸等の画材とでは、作成時の時間感覚などが異なると思いますが、長谷川さんの大き目サイズの作品からは、時間の積み重ねや流れがとても興味深く感じられます。
時にはたいへんなスピード感覚で制作されているのでは、と想像致します。
また、長谷川さんの小品からは、それらの根を詰めた密度の濃い作品とは一味異なる、身近に置きたい親密な可愛らしさが漂います。
そして、長谷川さんの個性豊かなマチエールの作品画面は、生き生きと希望に向かって息づくような空気感に満ちていると感じます。
今回の、光る石に縁取られ花々に囲まれた、思い切り麗しい母子像を表現したダイレクトメールもたいへん力強いメッセージを発信していたと思います。
小さな光る宝石類、名前もめずらしい磨き上げられた輝く石等が要所々に散りばめられた作品はオリジナリティー溢れるものに仕上げられ、ご本人自身の個性にも人々を楽しませようというエンターテイメント精神も感じられる等、長谷川洋子さんのクリエイティビティーを改めて感じております。
昨年に続き、「木村かほる展DOLL2」が開催されました。
ずっとチャレンジしている世界観に少しでも近付けたでしょうか。
最初は具象的な表現から始め、人物や植物や風景など一般的なモチーフを描いていましたが、現実を超えた世界を表現したいと、抽象的な作風へと移行しました。
そして現在は、出発時の具象のニュアンスと抽象とを融合した世界を表現しようとしている様ですが、中々難しそうです。
ペインティング特有の厚みのある感覚と、それとは逆説的に、加えれば加えるほど明度が増す光の世界の加算混合的な感覚とを同時に表現することを目指していることは、理屈では理解できてもどの様に展開されて行くのかは想像に難く、またその完成度をとても楽しみにしている気持ちもあります。
現実という3次元の世界と、目には見えないけれど確かに存在する世界、言葉にするとたいへんな感じが致しますが、絵を描くという行為自体がおおよそ具体的な表現であったとしても、それは生物としての直裁的な生命維持活動とは離れた抽象的な営為なのでは、と思います。
それだけに、その見えないエネルギーをどのような世界観でもって人々に差し出すのかということが問われるのではと考えます。
この生きずらい世界の中で、ポジティブな姿勢を失わずに自身の表現世界を構築し続けていくこと、クリエイティブな世界に生きる人にとって、その精神を維持し続けていくことが、一番に望まれていることと思うのです。
木村かほるは、ギャラリーのhp制作なども担うギャラリースタッフであり、自分の妹でもある事から、主観も入ってしまいそうですが、本人の制作や生きる姿勢にはエールを送りたいと思います。
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