2014年の民野宏之さんの個展は、装幀画の展覧会でした。民野さんとは長いお付き合いですが今回初めて目にする書籍や作品も多く、月日を経る毎に、素晴らしい作家との仕事がどんどん増えている事に驚かされました。
サルトルやトルーマン・カポーティ、カズオ・イシグロ、ピュリッツァー賞受賞の作家等の書籍を纏う言わば衣服の様な役目にも思われる、民野さんが描いた表紙の絵を見ながら、編集者の方、アートディレクターの方々はきちんと見ていて下さるのだな、と少し安心もしました。
というのも、人類の財産の様な古典文学の表紙ですのに、中の質量に見合わない装幀を何度か目にする事があり、しばらく失望感が消えずにいたため、余計に嬉しかったのかも知れません。
また逆に、民野さんの作品が表紙の絵として本が飾られるため、その本が内容以上の作品に思われ、文筆家がとてもラッキーな事もあるように思います。
乾いた感覚のマットな独特な筆致、静かな清潔な変わらない色面、テクスチュアの広がり、世界観・・・。民野さんの作品は、情報で溢れる慌ただしい現代社会を生きる人々の気持を、清涼な気分に塗り替える力がある様です。
http://old.spaceyui.com/schedule/tamino_14.html
初めての試みである三人展「もものけ展」が、未だ咀嚼しきれないまま、判然とストンと腑に落ちないままに、なにやら素敵な余韻を残して終了致しました。
三人の方々のそれぞれの個性である色彩やタッチのリズム、摩訶不思議な世界への通路を思わせる仕掛け等が混ざり合って、ゴージャスな満腹感の様な感慨に満たされました。
バランスのとれた楽しい室内楽が聴こえて来る様でもあり、どこの国ともいえない美味な無国籍料理の饗宴に招かれた風でもありました。
渾然一体に展示された作品の放つエネルギーは、あまり経験したことのない名前の付けられない価値が誕生しましたが、もう一度ひとりひとりに戻って三名の作家の作品をそれぞれ独立し、かつ連続するかたちでの展示が待たれます。
こんな時に、もう一度展示の機会をもてる事が、あらためて幸運なことに思えます。
深谷良一さん、城芽ハヤトさん、北沢夕芸さん、三名の方々の熱量の高い作品を天井の高い広々とした森の中のギャラリーで見られることをこんなに待たれる事はありません。
一度ご覧になられた方も、YUIGARDENにお出かけ下さいましたら、もう一度、新しい感動を味わって頂けることと思っております。
それにしても、どこに連れて行かれるかわからない、こんなに未知の力に溢れた作品展もめずらしいのではないでしょうか。
http://old.spaceyui.com/schedule/momonoke_14.html
昨年、一保堂のイラストレーションと、一保堂のお茶を用いての期間限定カフェを開き、誠に美味しい抹茶とほうじ茶で皆さんに感動を味わって頂いたくまざわのりこさんの展覧会は、今も記憶に残ります。そんなくまざわさんと、カフェやカフェを舞台に繰り広げられるストーリーをテーマに作品作りを続け、グッズの制作も手掛け好評のNomii Rabbitさんの二人展が開催されました。
今回は、四季を意識した平面作品をNomiiさんが制作し、四季折々の花々や植物をモチーフにくまざわさんがブローチを創りました。
Nomiiさんは、独自の味わいある三コママンガの作品も展示し、スタイルを確立しました。また、手作り絵本の中のNomiiさんの可愛いけれど少しブラックな表現も独特で定評があり人気です。
また、くまざわのりこさんの清楚なブローチは、柔らかな皮革からできていて、繊細な感性と技術の裏打ちがプロフェッショナルな仕事ぶりでした。
また、この会期に開催されたNomiiさんのコーヒーとくまざわさんの抹茶&ほうじ茶のカフェも大好評でした。
http://old.spaceyui.com/schedule/nomiirabbit_kumazawa_14.html
「2014 SPRING 陶とメタル ー 大地の仲間たち ー 」は、三名の方の工芸作品の展覧会でした。
長野県の長井一馬さんは、ツイッターがきっかけとなり、独特な作風に魅了されてお付き合いがはじまった方で、今回は三回目の出品となります。原始宗教の持つ呪術的なイメージとキャラクターの可愛らしさの融合が何ともユニークな作品は、画廊でもすっかり人気者です。
兵庫県の奥村絵美さんは、懇意にして頂いている関西のギャラリーの方からのご紹介で個展を開催なさった方ですが、若い女性らしい優しさとプロダクトデザイン的なクールな感性が併存、独自のスタイルを築いております。
また、鳥取県からのすえむねともひこさんは、沖縄の大学で陶芸を勉強された所為か、大らかな海の色や沖縄の伝統を現在に生かした作品を創りあげ、普段使いの陶器とともに、ダイナミックなオブジェを展示しました。すえむねさんの陶芸は、普段の食器はデリケイトに使いやすく、また、逆に土の荒々しさを残した作品もあり、と、魅力的です。
http://old.spaceyui.com/schedule/2014spring.html
昨日は建築家であり、YUI GARDENのオーナー(?)横河健氏の日大理工学部建築科の最終講義を受講して参りました。大きな講堂で数百人の人々が横河さんの講義に聞き入りました。
学生や高名な建築家の方々に混じって、私にとっては横河教授の最初で最後の授業を受けたわけです。率直に言うと、面白かった!学生に人気があるのが想像できます。だって学生より無邪気なんだもの・・。日大建築科の学生は、明快な優れた師を持てて幸せだったと思います。惜しまれますネ!
横河さんの講義は話し言葉で、むずかしい言葉や専門用語がほとんど出て来ません。横河さんとは長いお付き合いで、彼の実際の建築物を通して美意識の高さは実感していましたが、建築や美術について改まって話をしたことがなく、今日の講義を実はとても楽しみにしていました。
彼が今迄に創ってきた、システマティックなプロダクトの精神も入った楽しい建築物や、周辺の樹々やランドスケープを取り入れた瀟洒な個人住宅、公共施設等を見ると、この人の空間構築力の実力をもう少しこの国が生かす事ができたら視覚や触覚的な体感を通して人の意識も快いものになったのではないかと感じさせられました。
実際の仕事上では、官民の官の部分との関係がずいぶんたいへんな様子を伺い、いろいろなことが見えて来ました。建築の入札では建築物には関係なく一番設計料が安い所に発注される仕組や、大手ゼネコンの人間の感性無視の一律な建物設計等、やっぱり、と考えさせられる事も多々。
また、緑地を含む公共の土地を、建築を含むランドスケープとしての考え方がないため、建物は建物、緑地は緑地、という視点になってしまうという事等を聞き、目から鱗の感がありました。
そのような観点からも、YUI GARDENのある仲町台の横河設計工房(THE TERRACE)を建てる事は、横河さんの姿勢そのものであったし、そのために官の部分とのご苦労も聞き、何故あのスペースがあれほど人のこころを打つ特別な感慨のある空間であるのか、ということに思いが及びました。
また、神宮外苑の周辺は日本ではめずらしくよく考えられた都市景観であり皆に愛されているこの場所の新たな国立競技場計画を同業の立場からも私たち同様に、ひじょうに憂えて反対の活動をしております。
美術的な側面からのパワーのみならず、建築学会賞をとった岡山のグラスハウスの設計ディテイル等を伺うと建築の構造方面にもアイデアの閃きを感じました。そんな横河健さんの最終講義が聴けて本当に良かったと思います。あっという間の二時間でした。
そしてお話が終った後に、一曲唄おうかな、と、ギターを弾きながら、ものすごくよく通る声で「エーデルワイス」を唄いました。あ、ブルーのサングラスもかけました!
学生時代と全く変わっていませんでした。実は私たちは日大芸術学部で私が一年先輩でしたが横河クンは留学しているため年令は一緒です。ここは強調!!
インターナショナルな活躍を続け、多くの意義深い仕事をこなしながら、あれだけイノセントな横河クンは偉いな、と思い返した一日でした。
一昨日の夜遅くに、待っていたブログ・・・YUI GARDENで個展開催中のアミイゴさんから「ボクが絵を描いてきた中でこれ以上のことは無い」ということ丁寧に綴ってみますので、お楽しみに~!というメールが届いていたので、一体何が起きてどんなことが書かれているのだろうかと心待ちにしながら、自分でも画廊のブログを書いていました。小林マキさんの展覧会のこと、日々のつれづれのこと、そして最後の数行にYUI GARDENに作品を見に訪れた方々の中に素敵な化学反応が起って下さるとよいナ・・・と、心からの自分の願いを書き終わった時にアミイゴさんのブログが届きました。
その日、YUI GARDENでアミイゴさんの作品「わすれな草」を美しい佇まいの女性が購入されました。
その方にアミイゴさんがその絵に込めた思い、常日頃からアミイゴさんが敬愛の念を持っていた2011年の春に人々への愛をたくさん残したまま旅立ってしまった美術家の永井宏さんへ捧げた作品であった事を伝えた所、その女性がその方もしかしたら知っている方かもしれないと、葉山で永井さんの最後の治療を担当していた医師であったことを告げられたそうです。
永井宏さんは優れた文筆家、音楽家でもあり、アミイゴさんのみならず、数えきれない若い方々に慕われ影響を与え続けていた海辺の吟遊詩人のような人で、SPACEYUIでは毎年夏の風物詩の様に永井さんの個展を開催させて頂いておりました。
2011年3.11の震災後すぐに亡くなられた永井さんを悼む作品「わすれな草」のことは、2012年のアミイゴさんの個展の時にそっと教えて頂き、ずっと心に残っておりました。
このいくつもの符号が重なって生まれた奇跡は、決して偶然とは言いきれないものなのかも知れません。
複数のアーティスト等のエネルギーが結び合い、横河健さんの創り上げた仲町台の理想郷の中で起った出来事です。
ひたひたと後退へと向かうこの時代のさなかでの、これからの新しい出発に向けて届けられたメッセージなのかも知れません。
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