2012年3月に初めて開催して頂いた、小池アミイゴ個展「東日本」。
未曾有の災害に罹災した方々に対して、今でも語るべき言葉が見つけられずにおります。
そのような時に画廊の仕事として出来ることの最も大事な試みが、小池アミイゴさんの個展を開催する事だったと思います。
被災地に行き、人々と行動を共にし、絵を描き、文を書き、子供たちとワークショップをする、それらの行動の全てがアミイゴさんの心の底からのクリエイティブな営為と感じます。
2021年の今回の個展「東日本」は震災10年目となる特別な展示でしたが、大変な経験をされた方々への共感の思いは元より、数々の活動を通して感じられる、健康なまた障害のある全ての子供たちへの優しい眼差しは、アミイゴさんのDNAに組み込まれたものという彼の真髄に改めて触れさせて頂きました。
今回は、空気感が本当に美しい新作絵本「はるのひ」を上梓するにあたって、ご苦労をされた様子なども含め、アミイゴさんに文章をお寄せ頂きました。
↓
2012年3月の開催から6回目の開催となった個展「東日本」、3月17日に無事に9日間の会期を閉じることができました。
コロナの状況の中、お気遣い頂いた上でお運びくださいました皆様、ありがとうございました!
お運び頂いた方と絵を前に語り合う言葉は、ボクが次に何をするべきかのインスピレーションに溢れていて、1人ひとりと向き合う時間がほんと愛しかったです。
そうした会話からは、「東日本」というタイトルで10年やって来た意味に気づくことも多かったです。
今回は「はるのひ」という絵本を上梓した直後ということもあり、その原画も数点展示してみました。
「はるのひ」は、お話をいただいてから仕上がるまで3年3ヶ月かかった絵本で、小さな男の子がお父さんと声掛けあいながら走ってゆく、小さな冒険の物語です。
10年前の震災や原発事故、その後も度々起きた自然災害、そしてコロナの感染拡大という時代の中、日本の各地でお会いする人たちの暮らしに触れ、子どもたちが育ってゆく上で必要とされる、親子関係の原風景みたいなものが創れたらいいなと願いました。
ただ、それは頭で考える物語では無く、身体で覚え表現するようなことだろうなと。
それがどういうことか深く考えること無く、物語のプロットだけを頼りに旅に出てしまい、行く先々で出会う風景や人、足の裏や肌から感じるものによって、世界観を構築していったのは、2011年3月11日以降描いてきた絵のあり方と重なります。
そんなやり方だから、この物語が「春」を舞台としていることに気がついた時、そして、主役の少年に「こと」という名前をつけた時の2回、すべての絵を描き直しました。
さらには、少年の指先の角度をちょっとだけ修正しようとしたら、結局その他99パーセントの画面全てを描きなおすなんてことを、場面によっては20回くらい繰り返した絵もありました。
3年3ヶ月の間には、ご縁を頂き歩いた奥会津や塩竈、天草や知床、台湾や父を看取った群馬の地でも、自分の足で歩き回り、多くのインスピレーションを手にし、作品に色彩や構図、キャラクターに落とし込んでゆきました。が、その都度「ちがうー!」と心で叫び。何が違うのかわからずまま絵をぶっ潰して…
結果、3年3ヶ月も荒野を彷徨い続けてしまった感じです。
自分はなぜこんな遠回りをして絵本を作らねばならないのか?
制作期間中は分からなかったことが、今回東北を始め日本各地や台湾まで描いた絵と並べてみることで、明快になったように思います。
ボクが子どもたちと共有したいことは、ボクが人との出会いで得た感動が見せてくれる風景を、確信を持って一気に描き切る、そんな心の突き抜けた気持ちの良いもの。
ボクがお邪魔する土地に暮らす人が、普段見ているであろう何気ない風景。その何気なさが美しきものであることで、生かされるものってあるよなあ。それは、あーでもない、こーでもないと筆をためらい描くようなものでは無く、日常をスッと抜ける一陣の風のようなタッチで表現するべきだなあ。
だから、板にアクリル絵の具を何度も描きなおしを繰り返すとしても、それは白い紙に水彩で一気に描き上げた絵のようでありたいと思っていたんだな。
そんな10年目の気づき。
1枚の絵を描き続ける先で、「あ、終わった」とバタっと筆が止まる瞬間があります。
そうして生まれたものは、あらゆる理屈を受け付けず、昔からそこにあったような顔をしています。
もしくは、おおらかな時間の流れを宿しただそこにあるもの。
理屈じゃなくただ存在する。
そうしたものの尊さと儚さと潔さ。
津波で、原発事故で、コロナで、もしくは生きづらいと言われる時代の中で、放っておいては失われてしまいかねない美しきもの。
それを表現するためには、制作にちょっとでも躊躇いを感じたら、全部を描きなおすしかなかったんだなあと。
そこで手を抜いてしまっては、
三陸の凍てつく海でワカメや牡蠣を育てている人や、
天草の灼熱の海で天日干しの塩を作っている人や、
台湾では育てるのが難しいされる梨の栽培に尽力する人や、
もしくは、一杯の珈琲を提供することに人生をかけて取り組む人に、
伝わるものは出来ないということです。
そうしたことがわかっていれば、もっとスムースに描けたのか?
それがわかったことで、これからはもっとスムースに描けるのか?
それはわかりません。
ともかくこの3年数ヶ月は、こうした破壊と再生を繰り返すしか、描くべきものが作れなかったのです。
絵を描くことを続けてきた2021年の春、相変わらず新人のような気持ちでいられることが、良いのかどうかも分からないですが、これからも「わからない人」であることを自覚し、人との愛しき出会いの中で、なにか輝くものを見つけて行けたらいいなと願い、この展覧会も終わりでは無く、次に続くのです。
そう考える先でまたなにか生まれたら、1人ひとりに分け合う気持ちの元、絵のある気持ちの良い空間を創ってゆきますので、その際はまた足を運ばれ、ひと言ふた言の会話を頂けたらうれしく思います。
こうした現場は、もちろんボクひとりでは構築出来ず、丁寧なオーガナイズを与え続けてくれる荒野の並走者 space yui に感謝であります。
2021
0317
アミイゴ
PEACE!!
http://old.spaceyui.com/schedule/koike_amigo.html
藤本巧さんの初めての個展「コレクション」が、たいへん好評のうちに終了致しました。
若々しいモチーフを明るく優しい色彩で表現したイラストレーションの作品画面からは、穏やかな大らかなエネルギーが伝わって参りました。
藤本さんの作品の特徴のひとつに、常に画面の中に可愛らしいキャラクターが参加していて、思わず笑みがこぼれてしまいます。彼らは藤本さんの作品にとってたいへん重要な存在なのかもしれません。
キャラクターたちは、魚やカニ、哺乳動物から人間まで、あらゆる生き物たちが、緩やかにしかし時にはエッジの効いたタッチで登場致します。
そして彼らは画面の中にさり気なく、またナンセンスな感じに佇んでいたり、弱気な者も怒っている感じの者もいたりしながら溶け込み、イラストレーション全体の楽しさをバックアップしています!
顔彩という難しい画材を使って描かれる藤本さんの作品には、冷静に熟考し技法を操作しながらも楽しさ溢れる画面に定着させるための創意が充ちています。
23才という年令でこれだけの完成度を持つ藤本さんの今後がとても楽しみですが、大きな伸び幅の感じられる個性と、作品全体から流れるさり気ない温かさを、たいせつにして頂きたいと切に感じております。
昨年まで、東京工芸大学で谷口広樹さんの教え子だった藤本さんは、ご縁があり当ギャラリーのスタッフでもあります。ギャラリーのお仕事の中でも、彼の誠実さを実感しております。
次回の個展も本当に楽しみです!
http://old.spaceyui.com/schedule/fujimoto_takumi.html
本年も山田博之さんの作品展が無事終了しました。
山田博之さんは、毎年テーマを決めて個展作品を描き上げ、会場全体の雰囲気を作品が醸成する世界観に染め上げられ、訪れた方々を楽しませて下さいます。
2021年個展のテーマは「Cactus:仙人掌」、壮観にさまざまなタイプのサボテンが描かれました。とても絵として映えるモチーフと思います。
作品全体をリアルに表現するタイプの作家さんと思いますが、スーパーリアルな表現に寄せながらも山田さん独自の省略の仕方や繊細に平面上で描き分ける描法などの巧みさ、しかもそれらを全体的にひとつの画面に定着させる画法はひじょうに魅力的で、本当に山田さん独自のものと感心致しております。
また、細密な表現とラフな線のタッチやペインティングと組み合わせたプレゼンテーションも山田さんのオリジナリティーを際立たせていると感じさせられます。今回の展示された作品の中にも、様々な表現によるご自分の作品の部分を切り取り、コラージュした作品が、「Cactus」とはまた別のパワーを放っておりました。
絵を描くという行為自体が、ごく自然に山田さんご自身と一体化していて、どのような作風でも自分のものとしてこなしてしまう、というエネルギッシュな力量は、あまり感じた事のない感慨です。
山田さんの来年の個展テーマを、今から楽しみにしております!
http://old.spaceyui.com/schedule/yamada_hiroyuki2021.html
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