作家やプロデューサー、また展示のプロフェッショナルの会社の方々等とプロジェクトチームを組み取り組んでいた仕事が、2020年7月にやっと実を結ぶ事ができました。
川の流れと水力発電をテーマにした絵画作品を、新しく建設する奥会津水力館のギャラリー空間に展示する計画があり、作家のチョイスや空間レイアウト、また作品説明等の仕事を依頼されたのが2016年の夏でした。
私たちは、4年掛かりという年月に驚いていますが、計画はすでに10年以上前からあって、2011年の東日本大震災の後に起きたに奥会津地方の大洪水のため、一旦話が中断されていたそうです。
東北電力がクライアントで、みかんぐみという建築事務所が手掛ける奥会津の建築施設の中に展示する作品という事を伺った時には、何だかこのギャラリーにふさわしい小さな展示空間へのキューレーションの仕事という風に解釈していましたが、大きな勘違いだった事がすぐに判明致しました。
仙台にある東北電力の本社は、まるで要塞のような強固な建造物で、簡単には人を寄せ付けない権威の様なものを感じましたし、建築事務所みかんぐみは可愛らしいロマンチックな感性からの命名ではなく、クライアントに相応しい強固な建造物設計をなさる建築家集団でした。
現地は奥会津金山(かねやま)町にあり、広々と開けた敷地内に建つ約80メートル幅の平屋建物の正面からはぐるりと山々に囲まれた敷地が望め、建物の裏手のカフェスペースからはゆったりと流れる只見川が眺められるのです。
現場には、まだ整地もしてない頃から何度か訪れておりましたが、今年の5月連休明けはいよいよ作品の搬入の立ち会いの為の、3度目の奥会津訪問でした。
素晴らしい眺望の元、最新デザインの建築がど〜んと建ち、内装施工の株式会社ムラヤマによるシンプルの極致を目指されたインテリアデザインも素晴らしい空間でした。
また、開梱され壁に立てかけられた我がスペースユイの作家の方々の額装された作品も、東京の額屋さんでは見ておりましたが、現地で見ますと、想像を超える出来映えに、新たな感動を覚えました。そして美術館の展示のプロの方々の手による丁寧な作業による作品の設置は完璧なバランスで仕上がりました。
作品は、プロデューサーの方のアイデアで、水源、川、水力発電施設、灯り、の4つのテーマに分けて16点。それぞれのテーマでイラストレーターの方々に描いて頂きました。
F80、F40と、普段取り扱う作品に比べて相当大きなサイズでしたので、アーティストの皆さんも制作がたいへんだった事と思いますが、こうして大きな建造物の中で見ますと、皆さんがたいへんな力量の持ち主であるという事がわかります。
奥会津を流れる只見川には多くの水力発電施設がありますが、東北電力の初代会長である白州次郎氏が率先して電源開発に関わり、東北への富とエネルギーの流れに貢献されたという事です。
去る7月9日が水力館のオープンの日でしたが、生憎の新型コロナウィルス感染の影響から、東京のプロジェクトチームは作家たちも企画サイドも参加致しませんでした。そして、オープン当初は地元の方々だけに解放されました。
私が現地に行く時には新幹線を郡山で降車、郡山からはレンタカーで奥会津まで連れて行って頂いていましたが、電車を乗り継いで行くのは調べてからでないと、たいへんなことになるでしょう。何しろ水力館の近くの会津中川という只見線の駅からの電車は1日に6本ほどしか出ていないのです。
皆様ぜひお出かけ下さい、と中々申し上げられないのが辛いところですが、プロデューサーの方と相談の上、 行き方のご紹介や正式なご案内を後日に再度させて頂く所存でおります。
秘境、と言ったら失礼なほど奥会津地方は豊かな歴史ある自然環境が知られておりますが、只見線に乗って(幾駅かの区間だけの経験でしたが)、山あいをたゆたう様に流れる只見川を眺めていますと原初的な風景の中、心身が元気を取り戻すのを感じます。
東京から遠く離れた美しい場所に、画廊ゆかりのアーティストの方々の作品を展示する機会を得ました事をたいへん幸せな事と思っております。
普段のギャラリーの仕事以外のプロジェクトを組んでの仕事でしたので、作家の方々とも何度も会合を開いて話し合いや報告を致し、皆で奥会津に視察旅行に出向きました事も、楽しい思い出となりました。
そしてこの仕事をご一緒させて頂きました全ての方々に感謝申し上げます。
出品作家の方々(敬称略):
テーマ別
水源:民野宏之、深谷良一、水沢そら、矢吹申彦
川 :小渕もも、小池アミイゴ、舟橋全二、山田博之
水力発電施設
:高橋キンタロー、深谷良一、星野哲朗、山田博之
灯り:安西水丸、小池アミイゴ、竹井千佳、民野宏之
杉田比呂美さんの作品の、記憶に残る情景を慈しむ感覚が多くの方々の心に思い当たり、共感を呼ぶように思えます。
過ぎ去った時間を愛おしみながら、言葉にするのが難しい、余韻を残す作品の画面からは、現実世界の描写でありながら、どこかこの次元の外の出来事のようにも感じられる印象を覚えます。
目まぐるしい時間を生きる人々が、ふと立ち止まって、杉田さんの作品に触れる時、さり気ない表現ながら強い吸引力の世界観に魅了されるのだと思います。
もち論、作品はご本人を映しているものですから、杉田さんご自身の存在感の振れ幅もとても不思議。別の次元とも繋がっているかのような浮遊感覚がとても素敵なのです。
淡々と宇宙空間のどちらかからエネルギーチャージができて、作品のパワーへと繋がっているのかも知れません。そんなことができるなんて凄いことなのではないでしょうか。無限の可能性があるのでしょうか。
杉田さんと接していると、纏われるふんわりとした不思議な空気感に覆われてこちらもイメージがどんどん広がって行きます。
イメージのやり取りができることは、素敵だな、と感じます。
甲斐荘暁子
これまで、ずっと個展を開催して下さっていた甲斐荘暁子さんでしたが、2020年は、初めてお姉様の西田陽子さんと二人展というかたちを取って、新しい展開を見せて下さいました。
西田陽子さんは、妹の暁子さんの鮮やかな色彩のペインティング作品とは対照的に、銅版画の落ち着いたシックな色調の作品を展示致しました。
私は技術的な事に詳しくありませんが、北見隆さんが西田さんの作品について、たいへんな技術をお持ちだと説明下さいました。
西田さん、甲斐荘さんお二人の作品は実の姉妹という事もあり、無理なく調和がとれていて、無国籍な楽しく美しい空間を形作られていました。
甲斐荘さんは、ペインティングと鉄のオブジェを展示致しますが、今回はテーブルと照明器具がエキゾチックな魅力を放っておりました。
「ふきげんな姉妹」というタイトルの展覧会でしたが、実はいつもご機嫌な仲良し姉妹の個性的な作品が醸し出す、見た事のない感覚の空間は、見応えのある魅力的な世界でした。今回はお二人が自由に表現されましたが、次回はテーマを決められ、積極的に世界観を押し出されたら、どんなに楽しい表現をされるのでしょう!と今からとても期待してしまうのです。
西田陽子
水丸ファンの皆様には、2020年の夏の展覧会では人気のシルクスクリーン作品の内、エディションが売り切れてしまった作品のA.P.(アーティストプルーフ)の展示を致します、とお伝えして参りましたが、安西水丸事務所のスタッフの方がアトリエで膨大な量の作品整理をしている中、水丸氏の素晴らしい作品を発見して下さり、急遽個展の内容を変更させて頂きました。
小さな作品が主でしたが、構図はしっかりと水丸さんの水平線が描かれていて、いつも個展で発表して下さっていた作品のようにシンプルながらも綿密に考慮された背景が感じられました。まるで個展開催のための作品のように思いました。
また、作品は21点ほどでしたが、内8点がスノードームが描かれたものであり、それらを含む全作品が、ほとんどの方の目にまだ触れていない作品ばかりだったと思います。
残された水丸さんの大切なイラストレーションが、全て版画として作成できる訳ではございませんので、新作版画として世の中に発表させて頂く事に関しましては版元の画廊として、慎重に大事に作成、取り扱わせて頂く心づもりでおります。
2020年の7月、新型コロナウィルスの感染拡大が収まらない中、たくさんの方々にご来廊頂く事ができ、水丸さんの変わらぬ人気とパワーを改めて認識致しました。
そして今回の水丸展は、この厳しい時代にやさしい祈りの力を感じられるものや、こころ洗われる懐かしさ溢れる感情を誘う素晴らしい作品ばかりだったように思います。
もう、新作版画は作れないのではないかと思っておりましたので、思いがけない作品の数々に、制作サイドはもちろんの事、ファンの方々にとりましても、ラッキーな出来事だったのではないかと思っております。
駆け抜けて行ってしまった水丸さんの豊かな足跡には、いつまでも驚かされ続けております。
茶畑和也さんの人間性とユニークな個性と作品のパワーを離して考えるのは、たいへん困 難な!ことです。それほど茶畑さんの存在感は大きな優しさの力を孕む個性的なものと思 います。 作品は常にヒューマンな面白さをシンプルに表現されたパステルや線画調のスタイルです が、そのエネルギーは、いつも作者の人々に向けられた笑顔の映像の記憶と共に届けられ ると感じます。 茶畑さんは、名古屋の方ですので、今回の新型コロナウィルスの影響から例年のように画 廊にずっと滞在されることが適わず最後の三日間だけの在廊でしたが、訪れる方々に大ら かな優しさのパワーをチャージして名古屋に帰られました。 茶畑さんの留守の雨の日に見えた年輩の女性のお客様は、お散歩の途中、偶然画廊に入っ て見えましたが、今日の日々のさびしさを癒して下さる作品に出会えた事を本当に喜ばれ て帰られました。 そのように、ダイレクトに作品から慰められた、という方がとても多くいらした事が印象 的でした。 茶畑さんのおっしゃるには、自分のように箸休めのイラストレーターも時々は良いのでは ないかということでしたが、それもとても偉大なご意見なのではないかと感心してしまっ たのでした。
今年も天野さんが岡山からいらっしゃいました!
いつも作品と一緒に、備前の山から摘んだ木の小枝や葉っぱや可憐な花々などの植物を生き生きとさせたまま、お持ち下さいます。
そして、作品の展示と同時に天野流の自然体の素晴らしい生け花作業がなされます。小さな花器にも大振りの花器にも、それにふさわしい植物のみどりが生かされて独特の味わいがあるのです。
登り窯は、山の斜面を生かして建てられる、意外と申したら失礼に思われる程の堅牢な強固な建造物です。
山に建つ窯と共生されている天野さんのご自宅の庭は、山そのものと言えますので展示用の植物たちは、ご自宅の庭から持って来られている、という感覚という事なのだそうです。
そのような訳で、天野さんの備前焼き作品はみどりの植物と共に在る、という感じがいつもしておりましたが、今回はとうとう堂々の「Green」という作品展タイトルになりました。
そんな環境から生まれる天野さんの作品は、毎年静かに新しさを加えて進化を重ねられ、知らない内に多くの方々を魅了するパワーを持たれて参りました。
そして備前焼き陶器は元来、土そのものの風合いを生かしたとても素朴な味わいがありますから、Greenが見事に映えて、白い漆喰風風合いの壁面にとても合いますね、と、画廊空間で天野さんと一緒に一瞬見惚れてしまいました。
今回は、新型コロナウィルスの影響からのスケジュール調整で会期を少し短縮させて頂き、ご迷惑をおかけしましたが、天野さんの作品をお待ち頂いた方々がお出かけ下さって、いつも通りの賑やかな展覧会になりました。
今年は、お身体を普段以上に大切にされなければならない方はお出かけ頂けませんでしたが、来年も、この同じ季節に開催が予定されておりますので、どうぞお楽しみになさって下さい。
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