Monthly Archives: 12月 2014
2014.12.15:月曜日

 

 

 

 

2015年のスペースユイは、水丸さんの展覧会からスタートです。丁度20年ぶりに平凡社から村上春樹さんとの共著「夜のくもざる」が復刊される事となり、水丸さんと次回は俳画を掛け軸に誂えた作品展をと話していた適わなかった計画の替りに、素晴らしいテーマで展覧会を開催できる事となりました。

1995年にも平凡社よりの出版と同時に、当画廊で「夜のくもざる」展を開催、水丸さんの原画と村上春樹氏の原稿と共に数点の版画も発表しております。

村上春樹氏の洒脱なショートストーリーに描かれた水丸さんの36点の絵は、全作品を版画制作をしたいと思わせる、力のこもったものでした。

残念ながら全作品を版画にする事はできませんが、展覧会は「夜のくもざる」からの新たな版画作品をメインに展示させて頂きます。また、伝説的な「青の時代」、若い時代の水丸さんの未発表の小品や復刻版画作品等も展示致します。

展覧会を開催するにあたり、平凡社の方々からは常に適切なアドバイスとご助力を頂き、本当に感謝致しております。また、秋に展覧会が開催されたクリエイションギャラリーのキューレーターの方々にも膨大な水丸さんの原画の中から、こちらの要望する作品を快く探して頂きました。

版画作品と同時に水丸さんが愛着を持たれていた、スノードームやブルーウィロー、灯台等をモチーフにしたグッズも作成させて頂いております。

水丸さんは、日本でも海外でも観光地で販売されている感覚の、独特なカワイイおみやげ感覚のものをたいへん好んでおられました。 その事を特に意識して計画したわけではありませんが、今回、プラモデル製の東京タワーのトートバッグも作ってしまいました。

水丸さんの陶器を作るなら水丸さんの大好きなカレー皿等はどうですか?という陶器の会社のオーナーで、いつもたいへんお世話になっている横山氏のアイデアから、楕円の形をしたちょっと深さのある楽しいお皿も作ることが可能になりました。

そんなグッズ制作の準備に追われていた日々、ヴィクトリー陶器の横山氏と画廊で打ち合わせをしている時に、2月の第一週から始まる、水丸さんの次の週の展覧会開催者の石井逸郎さんがいらっしゃいました。

石井さんは、以前ロイヤルコペンハーゲンで10年間素晴らしい絵付けの仕事をなさっていて、今はフリーランスで日本とデンマークを一ヶ月毎に往復し、二つの国にアトリエとお教室を持つ方です。

この偶然の興味深い出会いに、早速お二人をご紹介をさせて頂きました。陶磁器を取り扱う仕事という共通項はありますが、その背景や製法は全く異なります。そんな横山氏と石井氏ですが、オープンマインドなお人柄のお二人、お話もとても弾みました。

 

 

石井逸郎

 

 

石井氏より昨年から、折にふれて簡単なレクチャーを受けているのですが、今迄スペースユイとは全く縁のない世界、と思っていたロイヤルコペンハーゲンという最高の磁器ブランドと、その歴史的な背景が石井さんを通してちょっと身近な興味ある対象と思える様になりました。

デンマークの「フローラ・ダニカ」という54巻にもなる植物図譜集は、緻密に描かれた原寸大の銅版画であり、デンマークの全ての植物を採集し描写するという作業と共に、それらを磁器に絵付けをする、という事は、国家の学術水準と国力を示すことを目的とした大きな文化事業でもあったそうです。

 

 

Toshiro Ishii  with  FLORA DANICA

 

 

また、隣国スウェーデンと常に緊張関係にあった18世紀のデンマークは、ロシアと不可侵条約を結び、国を挙げて創りあげた磁器をエカテリーナ女王に献上する、という意図もあった様です。

この18世紀に刊行された「フローラ・ダニカ」は、最上の磁器絵付けの元となったものですが、科学的にも芸術的観点からもひじょうに価値のあるこの銅版画はほとんど人に知られておりません。今回石井さんが企画されているのは、これらの銅版画を復刻し、石井さんがリタッチ、彩色をする、というものなのです。250年の時を超えたコラボレーションです。

 

 

 

 

先日、元ハンガリー大使公邸で現在は民間に渡り、展示会場やレストランとして機能する恵比寿にあるQEDクラブという風情ある建物の中で開催された石井逸郎さんの「フローラ・ダニカ」と磁器の作品展に伺って参りました。

王家の紋章が織り込まれた重厚なテーブルクロスの上にテーブルセッティングされた食器や銀のカトラリーや燭台等、ヨーロッパの深い歴史を感じさせるテーブル上の小宇宙は、ひとつの世界史の断片を見ている感覚が致しました。

水丸さんのグッズであるカレーのお皿の打ち合わせをしている時に、ロイヤルコペンハーゲンの絵付けをしておられた石井さんがいらした、という感覚が、スペースユイについての、ある感慨をもたらしました。

丁度その時に開催していた企画展が「BOX OPERA Ⅸ」という、この画廊の長年にわたり行われている9回目の展覧会でしたが、その後すぐに水森亜土さんの展覧会を開催する、という時期でした。クラシックな感性いっぱいの「BOX OPERA Ⅸ」と、ファンキーにはじける水森亜土さんの個展、そして田村セツコさんの「屋根裏部屋のプリンセス」と続きます。自分で計画をしておきながら、あまりに異なる個性にくらくらする様な感覚を覚えましたが、この感覚がこのギャラリーの個性なのだと思いました。

 

 

 

 

皆様の中には、スペースユイの不思議なこの混在的な感じに違和感を感じる方も当然いらっしゃることと思いますし、納得のできる事がらです。

また、一方で人の感性や個性は本当に多種多様でこれほどまでに違っているのは同じ人類なのにどういう事なのでしょう?という思いと同時に、作品をカテゴリーで分けるのではなく、テイストや温度で感じ分ける、という方法があってよい様にも思われます。

ひとりの人間の中には静かに沈静する部分、生き生きと高揚する感覚、様々な振り幅で見え隠れする感覚の世界があると感じます。美しいものも、可愛いもの、驚かされるもの、啓示するもの等、私たちの心がポジティブに刺激されるものは、時間や空間を超えて全てが繋がっている様に思えるのです。

 

 

水森亜土

 


田村セツコ

 

 

 

http://old.spaceyui.com/schedule/box-opera-9.html

BOX OPERA Ⅸ  IL DRAMMATICO

 

 http://old.spaceyui.com/schedule/mizumoriado_14.html

水森亜土 個展

 

http://old.spaceyui.com/schedule/tamurasetsuko_14.html

田村セツコ「屋根裏部屋のプリンセス」

 

 

 

 

 

 

2014.12.11:木曜日

 

 

 

 

明るく大らかな蒲優祐さんに頼んだら、装丁デザインもイラストレーションも、何でもきっちりとやってくれそうで、知り合ったら思わず仕事をお願いしたくなりそうです。

本のタイトル設定も帯のコメントも、柔軟に作り込み、書籍の装丁というひとつの小さな宇宙を楽しげに表現されていて、完成度の高い展覧会空間が形成されました。紙の素材等、ディテイルにもこだわって、内容に沿った素材を選びました。

蒲さんのグフィックワークは、タッチもテイストも、 あらゆるニーズに応えてくれる感覚です。それも無理なく易々と・・・。

絵を表現するというサイドから見ますと、どの様なタイプの表現も自分の表現でありながら離れた感覚でいる、どのタイプにも固執せず、それぞれを深めトータルな感覚で極め続けておられる・・・、ということでしょうか。

無意識的表現に感じるドローイングやペインティングからグラフィック処理的なイラストレーションやコラージュまで、幅広くタッチの異なる作品が会場に並びますが、色相が統一されているためか、不思議と違和感なくバランスが良いのです。

まだまだ謎の多い若きクリエイターの蒲優祐さんですが、何かを創る事の前提に感じられる、人々との間へのナチュラルな温かさをとてもたいせつなものに思いました。

 

 

 

 

http://old.spaceyui.com/schedule/kaba_14.html

 

2014.12.05:金曜日

 

 

 

 

広瀬弦さんの15年ぶりの展覧会でした。歳月は、確実に広瀬さんの腕を鍛え上げて、完成度の高い充実の作品を見せて頂く事ができました。

今回、10年間に渡る理論社より発刊の「西遊記」に掲載された174点の作品を、ダイナミックなプレゼンテーションで展示致しました。壮大なテーマで描かれた作品は床から天井に届く大きな9枚のパネルにプリントされ、一挙に作品が見られるという手法でした。

01から174まで、ナンバーがつけられた悠久の物語の作品には、広瀬さんが創造した愛すべき孫悟空の物語と共に、広瀬弦さんご自身の10年間の時間もオーバーラップします。

絵本をつくりあげるという事は、求められれば平面世界の中に空間、時間、人間や動物の造形、その人物が纏う衣装のデザイン、更には建物の外観や内装、家並みや街並も、山々や海や川等、森羅万象のこの世界のものを描くこととなります。

ましてや「西遊記」ともなりますと、中国や西域の広大な地域の時代考証や、登場する誠に大勢の妖怪たちや神々のキャラクター造形も為されなければなりません。広瀬さんは知らん顔してやってのけておりますが、どれだけのエネルギーが費やされたかわからないと思います。

緊張感を伴うロットリングで表現された広瀬さんのペン画は、人の想像力を刺激し、眼は画面の奥に引き込まれて行きます。

丁寧に描かれた絵本や児童書が大好きな子供たちは、ハラハラドキドキさせられ、時には奇想天外な孫悟空の物語から、広瀬さんの費やした創造のエネルギーを心の中にしっかりと受け止めて行くのでしょう。

広瀬弦さんは、画廊で何度も展示をさせて頂いた敬愛する佐野洋子さんのご子息でもあります。佐野さんの流麗な感性溢れる天才的な個性と、対照的に構築的な裏付けなしには描けない広瀬弦さんの魅力溢れる作品を感慨深く感じております。

 

 

 

 

http://old.spaceyui.com/schedule/hirosegen_14.html

 

 

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