「境界線」という、興味深いタイトルのオカダミカさんの個展でした。
ファッショナブルなモチーフとテイストに定評のある、オカダミカさんの、意外とも思われる側面がテーマの個展だったのでしょうか。
「目線や立ち位置を変えれば、そのどちら側にでもいける。 境界線を作るのも無くすのも、超えるのも自分。そんな気持ちで境界線をテーマに制作してみます。」・・・オカダミカさんのDMに書かれたメッセージです。
ギャラリーを訪れる方が多様に解釈のできる「境界線」というタイトルは、想像力を湧かせながら作品を鑑賞できるキーワードとなる言葉だったと思います。
今回の展示作品には、女性二人の肖像の頭部の部分が溶け合っているモチーフのものが多く見られました。異なる人間同士の考えや感性の違いを超えて行くことの意味を提示されていたように思います。
「美意識やイデオロギーの溝は埋められなくても、共存して行く。」それは案外に容易いことなのではないか?オカダさんの作品が指し示しているように思います。
また、オカダさんの作品の元来からの特徴でもありますが、描かれている女性の視線の神秘的な不思議さを感じます。作品の中でファッショナブルな衣装に包まれながら、現実世界のその先の遥か彼方を見つめている人の眼差しには、一体どのような世界が映っているのでしょうか?
それらの観点からオカダさんの作品を拝見しますと、観る側のイマジネーションを誘う様々なファクターが、光るモザイクの様に見え隠れしているように思われます。
ご本人の、愛情溢れる姿勢と冷静さとがファンデーションとなり創出された作品からは、繊細かつ鋭敏な心情を包括しながら、揺るぎのない核心のような芽生えが感じられます。
ものを創る人に取って、直観はとてもたいせつと思います。
論理的思考を基本としなければならない、また生来の思考の規範、ほとんどの基盤が論理に依って成る人々によって成立している社会を鑑みた時、特に感覚的かつ直観的世界観から成る分野のはかなさと、実に大切な重みとを同時に感じております。
太古の時代には、論理的な世界と直観的な世界が拮抗していたのではないでしょうか?
そして時間軸を空間軸に替えて考えた時、再びその問題に突き当たる気が致します。
眠りの中での夢が自分の頭で考えた事ではなく、他人の想念の電波としてやって来る場合があるように、論理を超えた目に見えない世界観までをどうにかしてキャッチして行くことの重要さを痛感しております。
シーノ・タカヒデさんがアフリカの大地に立って、視界をめぐらせた時に得た感覚は、人々からすでに奪い去られた神話の世界を想起させるものではなかったでしょうか。
地平を超えただけではなく、まさしく時間的なものも超えて、シーノさんはアフリカに魅かれて行ったのではないでしょうか。
アフリカの世界を描き続けているシーノ・タカヒデさんの心の中には、強く刻印された消えないインスピレーションのようなものが存在し、生き続けているのかも知れません。
長期に渡り何度も渡航していたアフリカ滞在という経験で培われたその印象の感覚が、普遍的な論理さえも味方にした柔らかな直観と結びついて行ったら・・・、と想像致します。混迷の極まる時代、プリミティブな本質的な生き物としての人間を、思い興されます。
本展覧会に於ける沢野弓子さんには、心から感謝申し上げたいと思っております。
3ヶ月にも満たない準備期間での個展開催でしたが、見事に素晴らしい展示を成し遂げて下さいました。
10月末のこの会期は、カナダ在住のイラストレーター、スリープレス・カオさんの作品展が予定されておりました。カオさんとは最後の最後まで開催について話し合いを続けて参りましたが、このコロナ禍の中での開催リスクを考慮し(カナダ、日本両国での各2週間の自主隔離の義務等)、断念せざるを得ない結論となりました。
スリープレス・カオさんの展示は丁度1年ほど延期となりましたが、来年10月には素晴らしいイラストレーションを皆様にお届けできると思っております。
さて、今回の沢野弓子さんのアイデアと意外性に富んだ展覧会は、沢野さんによるスタンプのコレクションから発想されたひじょうにユニークな展示でした。
誰に見せるという目的ではなく、これだけ多くの珍しくまた貴重なスタンプを、日本だけでなく、ヨーロッパの蚤の市などでも買われて沢野さんがお持ちだったという事は全く知らなかったので、とても驚かされました。
ゴム製のスタンプだけではなく、細い金属がまるでタワシのような、大きな歯ブラシのような構造で作られている、見た事のない花々のスタンプもありました。
スタンプの製造された時代も、100年以上を経たものから新しいものまでと時代もそして地域にも幅があり、嫌でもイメージが膨らんで参ります。小さなギャラリー空間の中に立ち現れた、時間も場所も超えたプレゼンテーションだったと思います。
お客様には、沢野さんが縫製された小さな木綿地や麻の小さなポーチに、それらのスタンプを自由に好きなだけ押してもらって各人独自のヴィジュアルスタンプ作品を作って頂くという贅沢な時間を、たっぷりとお楽しみ頂けました。
大の大人の皆さんが、子供のように夢中でスタンプを押されている姿が本当に楽しそう!素晴らしい時間でした。
また、ヤシの繊維を用いて作られたブローチやコラージュ作品も既視感のない新感覚の作品で、皆の眼を楽しませて下さいました。
グラフィックデザイン的なエッセンスとセンスをバッグ等に置き換え、沢野さんが豊富に持たれている装飾的なパーツをコラージュした作品も、変わらぬ人気を誇りました。
例年は、2年に一度のペースで開催して頂いておりますが、今回は思わぬきっかけからフレッシュな展覧会が開催できました事、ギャラリー、そして沢野さんファンの方々にとりましても、幸運な経験でした。
手島加江さんの作品に込められた思いが、すーっと心に届けられる時、心地よい風の感触や自然の中に立ち返る佇まいを感じます。
漉かれた和紙に載せられた墨の香りが、優しい花や女性像にのって匂い立つ様です。
清潔な墨を一本の線で表現する手島さんの姿勢をとても清々しく感じます。
そんな手島さんに文章を書いて頂きました。
↓
私は、青い花が好き、白い花も大好き。作品展を予定した時にはこ
のような年になるとは、思いもよらず、、、
年の初めには呑気に構えていた。しかしマスクが店頭から消え怖い
ニュースが目から耳から入り気持ちがどんどん縮こまっていく。
追い討ちのように友人の大病などでがんじがらめになってしまっ
た。
そんな時、友達の励ましの言葉をもらい気持ちを立て直すことがで
きた。
マスクは日常になっても自分を開放される時は、好きな草花を見て
いる時だ。
今回このテーマにして良かったと思う。
絵を見てくださった方々が少しでも微笑みになれたら、いいなと思
います。 (手島加江)
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