2015年のスペースユイは、水丸さんの展覧会からスタートです。丁度20年ぶりに平凡社から村上春樹さんとの共著「夜のくもざる」が復刊される事となり、水丸さんと次回は俳画を掛け軸に誂えた作品展をと話していた適わなかった計画の替りに、素晴らしいテーマで展覧会を開催できる事となりました。
1995年にも平凡社よりの出版と同時に、当画廊で「夜のくもざる」展を開催、水丸さんの原画と村上春樹氏の原稿と共に数点の版画も発表しております。
村上春樹氏の洒脱なショートストーリーに描かれた水丸さんの36点の絵は、全作品を版画制作をしたいと思わせる、力のこもったものでした。
残念ながら全作品を版画にする事はできませんが、展覧会は「夜のくもざる」からの新たな版画作品をメインに展示させて頂きます。また、伝説的な「青の時代」、若い時代の水丸さんの未発表の小品や復刻版画作品等も展示致します。
展覧会を開催するにあたり、平凡社の方々からは常に適切なアドバイスとご助力を頂き、本当に感謝致しております。また、秋に展覧会が開催されたクリエイションギャラリーのキューレーターの方々にも膨大な水丸さんの原画の中から、こちらの要望する作品を快く探して頂きました。
版画作品と同時に水丸さんが愛着を持たれていた、スノードームやブルーウィロー、灯台等をモチーフにしたグッズも作成させて頂いております。
水丸さんは、日本でも海外でも観光地で販売されている感覚の、独特なカワイイおみやげ感覚のものをたいへん好んでおられました。 その事を特に意識して計画したわけではありませんが、今回、プラモデル製の東京タワーのトートバッグも作ってしまいました。
水丸さんの陶器を作るなら水丸さんの大好きなカレー皿等はどうですか?という陶器の会社のオーナーで、いつもたいへんお世話になっている横山氏のアイデアから、楕円の形をしたちょっと深さのある楽しいお皿も作ることが可能になりました。
そんなグッズ制作の準備に追われていた日々、ヴィクトリー陶器の横山氏と画廊で打ち合わせをしている時に、2月の第一週から始まる、水丸さんの次の週の展覧会開催者の石井逸郎さんがいらっしゃいました。
石井さんは、以前ロイヤルコペンハーゲンで10年間素晴らしい絵付けの仕事をなさっていて、今はフリーランスで日本とデンマークを一ヶ月毎に往復し、二つの国にアトリエとお教室を持つ方です。
この偶然の興味深い出会いに、早速お二人をご紹介をさせて頂きました。陶磁器を取り扱う仕事という共通項はありますが、その背景や製法は全く異なります。そんな横山氏と石井氏ですが、オープンマインドなお人柄のお二人、お話もとても弾みました。
石井逸郎
石井氏より昨年から、折にふれて簡単なレクチャーを受けているのですが、今迄スペースユイとは全く縁のない世界、と思っていたロイヤルコペンハーゲンという最高の磁器ブランドと、その歴史的な背景が石井さんを通してちょっと身近な興味ある対象と思える様になりました。
デンマークの「フローラ・ダニカ」という54巻にもなる植物図譜集は、緻密に描かれた原寸大の銅版画であり、デンマークの全ての植物を採集し描写するという作業と共に、それらを磁器に絵付けをする、という事は、国家の学術水準と国力を示すことを目的とした大きな文化事業でもあったそうです。
Toshiro Ishii with FLORA DANICA
また、隣国スウェーデンと常に緊張関係にあった18世紀のデンマークは、ロシアと不可侵条約を結び、国を挙げて創りあげた磁器をエカテリーナ女王に献上する、という意図もあった様です。
この18世紀に刊行された「フローラ・ダニカ」は、最上の磁器絵付けの元となったものですが、科学的にも芸術的観点からもひじょうに価値のあるこの銅版画はほとんど人に知られておりません。今回石井さんが企画されているのは、これらの銅版画を復刻し、石井さんがリタッチ、彩色をする、というものなのです。250年の時を超えたコラボレーションです。
先日、元ハンガリー大使公邸で現在は民間に渡り、展示会場やレストランとして機能する恵比寿にあるQEDクラブという風情ある建物の中で開催された石井逸郎さんの「フローラ・ダニカ」と磁器の作品展に伺って参りました。
王家の紋章が織り込まれた重厚なテーブルクロスの上にテーブルセッティングされた食器や銀のカトラリーや燭台等、ヨーロッパの深い歴史を感じさせるテーブル上の小宇宙は、ひとつの世界史の断片を見ている感覚が致しました。
水丸さんのグッズであるカレーのお皿の打ち合わせをしている時に、ロイヤルコペンハーゲンの絵付けをしておられた石井さんがいらした、という感覚が、スペースユイについての、ある感慨をもたらしました。
丁度その時に開催していた企画展が「BOX OPERA Ⅸ」という、この画廊の長年にわたり行われている9回目の展覧会でしたが、その後すぐに水森亜土さんの展覧会を開催する、という時期でした。クラシックな感性いっぱいの「BOX OPERA Ⅸ」と、ファンキーにはじける水森亜土さんの個展、そして田村セツコさんの「屋根裏部屋のプリンセス」と続きます。自分で計画をしておきながら、あまりに異なる個性にくらくらする様な感覚を覚えましたが、この感覚がこのギャラリーの個性なのだと思いました。
皆様の中には、スペースユイの不思議なこの混在的な感じに違和感を感じる方も当然いらっしゃることと思いますし、納得のできる事がらです。
また、一方で人の感性や個性は本当に多種多様でこれほどまでに違っているのは同じ人類なのにどういう事なのでしょう?という思いと同時に、作品をカテゴリーで分けるのではなく、テイストや温度で感じ分ける、という方法があってよい様にも思われます。
ひとりの人間の中には静かに沈静する部分、生き生きと高揚する感覚、様々な振り幅で見え隠れする感覚の世界があると感じます。美しいものも、可愛いもの、驚かされるもの、啓示するもの等、私たちの心がポジティブに刺激されるものは、時間や空間を超えて全てが繋がっている様に思えるのです。
水森亜土
http://old.spaceyui.com/schedule/box-opera-9.html
BOX OPERA Ⅸ IL DRAMMATICO
http://old.spaceyui.com/schedule/mizumoriado_14.html
水森亜土 個展
http://old.spaceyui.com/schedule/tamurasetsuko_14.html
田村セツコ「屋根裏部屋のプリンセス」
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