DMのための画像が送られて来た時に、そのアマリリスの花の絵を見て、民野さんの心境の素敵な変化を感じました。
札幌から民野さんがいらして、搬入が終えた後、その疑問をストレートに伺ってみました。民野さんのお話によると、湖の見える道東にある民野さんの知人の小さな家にアトリエ替わりに数日滞在した時の事、窓から見える緑の木々を描いていて、急に絵の描き方が自由なものになった感覚を掴まれたとのことです。作品画面と筆の触れ合う中で、絵の具の用い方が今までの方法に捕われなくなったのだそうです。
約30年の間、ほとんど毎年個展を開催して下さる民野さんですが、時々新たな貌を見せて下さいます。
私がギャラリーを始めた理由は、「自由」というキーワードに尽きるような気が致します。背景に節度を持った自由である事は述べるまでもありませんが、表現する事においてのカテゴライズやスタイルから解き放たれたギャラリーにしたかったのです。
そして時代は、どんどん変わっていきますから、ギャラリーの在り方、絵画やイラストレーションもクオリティーは揺るがないものでありながらも、メディアと共に歩んで行く方向にしよう、と考えていました。絵画も彫塑も純粋な美術ですが、システムをイラストレーションのようにメディアに乗せ、広げていくべきと思っていました。
時節や流行や、また逆にマンネリズム的方向からの影響から離れて、言葉や他のどんな方法でも表せない表現としてのヴィジュアライズされた作品が素敵だな、と感じます。
民野さんを始めとしてそんな風に思っているクリエーターは案外大勢いて、彼らはとても自由です。
でも、そういった作家たちと一緒に仕事をし、広げて行く事に携わるメディアやお仕事の関係の方々の中には、本質的なものとは関係のない様々なファクターから離れられず、目には見えづらいけれど一番大切な感性を見逃している感覚を時に感じます。
魅力的な大きな力を持った作家さんの作品よりも、気軽に使い易い作品をメディアに掲載する傾向が続いていたら、美術というものの力の持つエネルギーの無駄使いになると思います。
私は、自分のギャラリーを支えている志が間違ったものなのかも知れないと悩んだ時期もありましたが、民野さんのような作家さんの作品、そして温かな気持にさせられる作家さん自身とギャラリーとの絆を考えますと、決して間違っていなかったと今では思えるのです。
そして、現在では作家がSNSを駆使し、自身もメディアを持つ時代となりましたが、彼らはその分野ではプロフェッショナルではありません。素晴らしい雑誌や書籍や広告関連のお仕事に携わる方々には、素人メディアの方々に負けない、充実のお仕事、期待しております。
親しさに甘え、民野さんの展示についてのページを借りて私事を述べてしまいましたが、民野さんご自身はずっと理想的な形でのお仕事を続けられ、カミユやサルトルの著書の翻訳物の装幀、トルーマンカポーティや現代作家の表紙も飾ります。何と言っても一番印象的なお仕事は、「わたしを離さないで」=カズオ・イシグロの表紙のイラストレーションです。昨年惜しくも亡くなられたアートディレクターの坂川栄治さんが来られて、打ち合わせをされていた情景が今も目に浮かびます。
毎年、民野さんの個展が近くなるにつれ、多くの民野さんファンの方が感じていらっしゃるに違いない、懐かしく温かなものが心に宿ります。
http://old.spaceyui.com/schedule/tamino-hiroyuki-2.html
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