鹿を中心とした生き物=生命体を通し、人間の柔らかな心情やデリケイトな心の襞を表現することに成功したミヤギユカリさんの展覧会は、来廊された方々に大きな共感を持って受け止めて頂きました。
ミヤギさんによって描かれた森の中の鹿や鳥たちの瞳には、静かな水を湛えた湖のような気配が宿り、その眼差しは作品の中から何かを語りかけているかに感じられます。
鹿は、古来より人々に神秘的なイメージを掻き立て、神話のモデルとして語り継がれたり、神の使いとして大切に扱われておりますが、ミヤギさんの描く鹿たちと出会い、改めてその真髄に触れたように思いました。
柔らかな水彩のタッチで表現された作品がメインでしたが、一方で黒一色で大胆に表された作品もたいへんインパクトがあり印象深い天性の表現力を感じさせられるものでした。
ミヤギさんの個展案内状に、
「瞳の中に潜む野生。美しいその背に触れようとした瞬間、ふっと向きを変え森の中へ消えていく。幻なのかーーそしてDeerが連れてきたフクロウ。また森の中を描き続ける。」
という、短いけれどとても詩的に感じられる文章がありました。
ミヤギさんの描く鹿の瞳と出会い、そしてその文章を目にした時に、ふとずっと以前に読んだフランソワーズ サガンの短編小説「絹の瞳」を思い出しました。
あまりにも時が経ってしまったため、細かなストーリーは忘れてしまいましたが、追いかけても辿り着けない黒い神秘的な瞳を持つ者は、カモシカだったような気が致します。
山の中で鹿と出会った登場人物が、山道を追いかけて行き、追いつきそうになると離されながらも振り返り早くいらっしゃい、と、鹿の話しかけるような瞳に魅せられる・・・というようなお話の不確かな記憶でした。
今回ミヤギさんの個展に登場した生き物たちは、人々の中の様々な物語を思い起こさせ、静かに優しい感情を呼び起こす力量のある、魅力的な生命体だったのだと感じています。
http://old.spaceyui.com/schedule/miyagiyukari_2021.html
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