谷口広樹氏の追悼展を振り返りまして、失った存在の大きさに改めて残念な思いにかられております。
お出かけ頂きました皆様と谷口氏との間に、交流の中で育まれた温かな思いが感じ取れました。そしてお客様のお話から自然と滲み出る谷口広樹氏の全ての人々に対しての思いやりの深さにも感じ入りました。
意義のある仕事を多く残され、また教える立場としても重要な役割を果たされて来られた谷口氏の存在感は、生徒さん達にとって悲しいけれど大きく大切なものとして心に留まり続ける事と思っております。
貴重な膨大な分量の足跡を残された谷口広樹氏の急逝に際し、当ギャラリーでの展示ではとても全容をご紹介できるものではありませんが、ご生前親交の深かったアーティストの方々のご協力を得てささやかではありますが思いのこもった追悼展を無事に開催することができたと存じております。
谷口氏の追悼展に関しましては当画廊だけでなく、引き続き以下のギャラリーにて開催の予定がございますので、ぜひお出かけ下さいませ。
3/28〜4/9 コバヤシ画廊
5/4〜5/8 代官山ヒルサイドテラスエキシビションルーム
尚、2018年1月の北見隆さんとの二人展の際に作った小さなシルクスクリーンのおみくじの売り上げ金をご生前に素晴らしい仏画を描かれた神谷町の光明寺に奉納させて頂きます。
また、今回の追悼展では、出品者の方々の文章を作品と共に展示させて頂きましたので、以下にご紹介させて頂きます。
↓
・伊藤桂司
岡倉天心記念館の前を少し過ぎた辺りで、谷口くんとバッタリ会った。谷中のギャラリーで開催されていた津々井良くんの個展最終日に向かう途中でのことだ。谷口くんは観終わった後だったが、半ば強引に「もう一回観ない?」と会場に連れ戻す。フォークロアとヨーロッパの日常風景が入り混じったような魅力的な作品を二人で楽しんだ。津々井くんも交えて3人で話すなんて、一体何年ぶりのことだったろう。観覧後は、近くのカフェで他愛もない冗談を交わし、ともに参加することになっている北海道のプロジェクトのことや音楽の話をした。カフェを出て日暮里の駅まで歩く。乗る電車は反対方向。ホームではいつものように手を振って別れた。2021年7月12日月曜日の夕方。それが谷口くんと会った最後だった。
・越智香住
小さい出会い 谷口広樹さんとの初めての出会いは3年前 (2019年) のスペースユイでの新年企画『一陽来福』展に出品依頼を受け、北見隆さん、谷口広樹さんお二人とご一緒させていただいた時です。顔合わせの日、谷口さんはお仕事が忙しく挨拶だけの刹那的なものでした。二度目は昨年の4月のスペースユイでの私の個展にご来廊いただき、親しくお話ししていただいて、拙作「あわせて」が気になる作品と言っていただいたのが耳に残っています。この追悼展は谷口広樹さんと私の三度目の出会いなのだと思います。心からご冥福をお祈り致します。
・北見隆
谷口さんは純度の高い大きな抽象画も描けば、デジタルによる気が遠くなるほど細かい、商業イラストも手掛けられていた。その上後進の指導にも手腕を発揮されており、その振り幅の大きさから「谷口さんが何処を目指しているのか僕には解らない」と、ご本人に申し上げたことがあるのだが、氏は笑っていた。谷口さんの作品タイトルはいつも凝っている。それは人生訓のようであったり、心情吐露のようであったりもする。谷口さんが亡くなった時に開催中の個展の中に「山はたくさんあるけれど頂上はたったひとつだけ」といったタイトルの作品があった。私はこのタイトルを見たとき、谷口さんが目指す方向性の謎が解けた気がした。谷口さんはその溢れる創作エネルギーに突き動かされ、眼前に高い山が現れると踏破せずにはいられなかったのではないだろうか。今回の突然の出来事はある意味、登山家の遭難事故だったのかもしれない。そう考えれば大いなる才能の喪失に、私も諦めが付く気がする。
・黒田愛里
昨年の夏に私は個展がありました。その会期中に谷口先生がなんと2回も来てくださり、忙しい先生に2回も個展を見てもらえた事がとても嬉しかったのを覚えています。(先生も同ギャラリーで個展を控えていたので打ち合わせもあったのですが)個展の度に何と言われるか毎回ドキドキで、先生に感想を伺うと今までにないくらい褒めてくださって、それが本当に嬉しくてまた頑張ろうと思えました。その日、私が先生と会えた最後でした。「自分を大切に、裏切らず精進すること」悩んでいたとき先生に言われた言葉です。先生には何度も何度も背中を押してもらった気がします。谷口先生の本「homosapiensaru’s wisdom」からも大切な教えを沢山いただきました。1つ1つの言葉が優しく、ときに愛をもって厳しく、先生の声で語りかけてくるこの本が私は大好きです。今回の作品はこの本の中の言葉からイメージを膨らませて描かせていただきました。一番大きな作品「わけへだて の ない あい を もって」というタイトルも、zine「homosapiensaru’s wisdom」の中の言葉からです。
・津々井良
「さるとき」
たかいいしで にちじょうを ぐちょくに ちせいの ひかりで
ろかし きおくにかえた
「夜のほとり」
谷口が最後に褒めてくれた作品
名前を呼び捨てで言える学生時代に出会った
初めて絵を見た時、凄い奴がいると実感した
二人でシルクの作品を作った
個展のDMから本のデザインから
頼めば忙しいのにホイホイとやってくれた
そしていつもエナジーをくれてた
あ り が と う
「月下に眠る」
あぁ、90まで100まで 生きて描くからと 低い声で断言してたのに
8月の月下の眠り しばしの別れ 芒格札の庭で 又逢おう
・フジイカクホ
「マルフーとヒラフー」
学生時代、私はコンペで結果を残すことに固執して作品の方向性を失っていた時期がありました。そんな時に声をかけてくださった谷口先生の言葉がとても心に残っています。「今のお前の作品ではチョイスもひとつぼ展(1wall)もTISも通らない。しかし、賞を取った先にお前の求めているものがあるのか?お前はお前と作品を必要としてくれる場所に行け。コンペは自分にあったものがある。」この言葉をいただいてからは必要としてくれるところで作品を制作していけるように進み始めました。無理にコンペに出すことはやめ、仕事に繋げるべく売り込みを続けました。少しずつ仕事も増えてきた頃、イラストノート誌上のコンペ「ノート展 キャラクター部門」の募集が目に止まり、コンペの実績もそろそろほしいと思っていたので応募してみたところ準大賞を受賞。先生の言う通りになりました。「マルフーとヒラフー」はその時初めて賞をいただいた思い出深い作品です。
「粘土ミニチュア5mmシリーズ」
学生時代には自分の表現への追求で自分らしさを見失っていた時期もありました。当時の私は個性を履き違えており、表面上のことばかりを考えていたのです。ある時、私はクジラをモチーフにした作品を制作しましたが、様々な要素を盛り込んだクジラは面影がほとんどなくなってしまっていました。それを見た谷口先生から、「クジラといえば尾びれと潮吹きだろう。そこはきちんと表現しなければならない。」と、ご指導いただき、イラストレーションとして表現する際に欠かせないものがあることに気づかされました。近年は「粘土ミニチュア5mmシリーズ」として、約5mmサイズで動物をはじめ様々なものを制作しています。大きさの制約があるので要素の取捨選択をしながら進めるわけですが、デフォルメを追求する際には今もこの時のことが頭に浮かびます。まだまだ失敗することもありますが、先生の教えを胸に精進してまいりたいと思います。
・藤本巧
かわいい物が大好きな谷口先生は、よく僕が描くキャラクターに興味を示してくれました。マカロニ星人を描いた時には「これはゴーヤ?」「マカロニです。」とか、ひよこのポーチを描いた時には「これかわいい!口からティッシュとか出るの?」「口は開かないです。頭の上が開きます。」なんて会話が楽しくて、先生に絵を観てもらうことが好きでした。何度も相談して構図や色を決めたり、完成した絵を講評してもらい、また次の絵を描くということをひたすら繰り返していました。今思い返すとこの上なく贅沢な時間でした。僕が顔彩を使い始めたのも、画材に迷っている時に先生が目の前で顔彩を使って描いているのを見たことがきっかけでした。僕の絵には先生の教えが存分に詰まっています。この器の絵は先生のことを考えながら描きました。先生が観たらなんて言ってくれるでしょうか。あの時のように「巧は巧みだね~。」って笑いながら褒めてくれるでしょうか。
http://old.spaceyui.com/schedule/taniguchi_hiroki2022.html
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