去る7月2日、シルクスクリーンの作家で、毎年個展を開催して下さっていた田村愛さんが永眠されました。この6月にお誕生日を迎えられたばかりでした。
いつも明るい笑顔で朗らかに語り、潔く大らかな性格だった愛(まな)ちゃんが突然姿を消してしまい私たち愛ちゃんと親しかった者は、しばらくの間、なすすべもありませんでした。愛(まな)という名前を付けられたご両親、毎年必ず来廊下さったお兄様等ご家族のお気持は想像に難くありません。
まだ20代の前半から本当に毎年、まなちゃんが教えている大学のお休みに合わせての9月の第一週目は、まなちゃんの個展の一週間でした。最初はまだ学生で、京都在住のまなちゃんは宝ケ池プリンスホテルで皿洗いのアルバイトをしながら個展を開催しておりましたが、優秀な作風が認められ、デザインの専門学校や大学の講師として招かれる様になりました。そればかりか、元々なかったシルスクリーン科を学校に作らせてしまう実力の持ち主でした。
まだ学生だったまなちゃんと、初めてお会いした時に見せて頂いた作品の完成度の高さに驚いた事が昨日の事の様に思い出されます。
通常、シルクスクリーンのテクスチュアはしっかりとした色味どうしの平面構成的なものが多いけれど、まなちゃんの作品画面は見た事のない感覚と透明感とが見る者に目を見開かせてしまうのでした。
特に、大きな画面に遠くまで広がる空、いろいろな表情を見せる雲や、山々、樹木等の自然を、柔らかく、時に激しく描いた作品には、大きく心打たれるものがありました。
昨年も一昨年も病に打ち勝って、元気に個展を開催しました。今年も画廊の5月のグループ展BOX OPERAでは、キュートな作品を出品されたばかりでした。
7月5日に京都で行われた告別式では、多くの方が詰めかけて会場に人々が入りきる事ができませんでした。若い方々が愛ちゃんとの別れを惜しみ哀しまれている様子に胸を打たれました。
画廊では、まなちゃんと京都でお会いする約束をしていた、というグラフィックデザイナーの方が呆然とし、また別のアートディレクターで公私ともに親しくされていた方は何日間かショックで寝込んでしまわれました。
今、スペースユイでひとつとても楽しみにしている素敵な仕事のお話があります。緑も水も豊かな雄大な自然環境の中で、多くの作品を発表する、というプロジェクトです。その企画の出品作品の中にまなちゃんの風景を描いた作品を、と申し上げた所、ありがたい事にプロデューサーの方もその様に考えておられたとの事でした。心から実現を望んでおります。その方とは以前にも或る新雑誌の表紙を決める時の候補にまなちゃんの作品を推薦して、実現一歩手前で他の方に決ってしまったという経緯があります。
たくさんの方々が、変わる事なくずっとまなちゃんを見守り続けておられることを感じております。
また、告別式の帰りの新幹線から見えた空の景色は雄大この上なく、語りかけて来る雲の有様は、壮大な神々の舞台の様でした。こちらでのまなちゃんは引き受けた!と天の神から告げられた様に感じました。
MIZUMARU ANZAI SUMMER EXHIBITION 2016
安西水丸さんの個展を無事終了する事ができました。今回は、画廊の抽き出しの中からひょっこり現れた「レモンとコカコーラ」の作品をテーマにした展覧会でした。爽やかな気持の良い作品を発表する事にしました。今までは、小品や色彩が鮮やかな作品展が続きましたが安西水丸氏の真骨頂と、私が勝手に思っている空間を感じさせる画面、緊張感と緩やかな感覚が一瞬交差するような画面を皆様に感じて頂けましたらと思いました。
水丸さんがいらっしゃらない今、本当に気を付けて作品を作らなければならないと思っております。画廊では、もう新作の発表というのは不可能かも知れませんので、今回は復刻も含め、名作と感じる作品ばかりを作らせて頂きました。
また、グッズの制作では今回「カバ」のTシャツを20年ぶりくらいに復刻致しましたが、思いのほか大人気です!スイカと女の子のシャツも版画から取りましたが、記憶に残るものとなりそうです。
折から様々な場所で催しの開催される期間でした。京都の伊勢丹の美術館「えき」でも、水丸さんの大規模な展覧会が開催、大好評でした。こちらの作品群の中では、30パーセントくらいでしょうか、スペースユイで作成した作品が展示されており、他の作品も存じ上げているものも多く、今回は自分のところの準備、開催とも重なるので、京都行きを最後まで迷っていましたが、田村愛さんの告別式に出席するため、水丸展も見る事になりました。
水丸さん、いつこんなにお仕事をされていたのですか?と思う程、たくさんの作品が展示されていました。知っている、と思っていたイラストレーション等、ほんの一部だったのですね。
また、今回の個展に間に合う様、初期の頃のシルクスクリーン作品を中心にした美しい作品集も出版されました。(写真)
http://old.spaceyui.com/schedule/anzaimizumaeu_16.html
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