実に31年ぶりとなる、1988年に発表された安西水丸カレンダーシリーズのシルクスクリーン作品展でした。1月から12月迄のテーマ別で、それぞれの月の季節感が楽しく表現された個展だったと思います。中には、何故3月のテーマが「犬?」とか9月は「UFO」なのかしら?などという部分もありましたが、七夕やスイカの女の子、スキーやクリスマスツリー等も登場、12ヶ月の風物詩的な興趣をたっぷりとご堪能頂けたのでは、と思っております。
そして何より31年経過した現在に於いても、全く古さを感じられないどころか、更にフレッシュな印象でギャラリーにいらした方々に受け止められた事に対しましても、大きな驚きと喜びを感じました。
1987年か88年の或る日に、安西氏がいつもの様にぶらっとギャラリーにいらっしゃり、三ヶ月置きに四度の個展を開催なさりたいとお申し出下さいました。
現在の画廊の1/4の広さしかなかった当時の画廊空間を想定なさった上で水丸さんの、楽しく自由に感性を遊ばせる展示の企画構想だったと思います。
そしてこのシリーズ第一回目の展示は、今回一番人気のあった「8月」のスイカの女の子の原型とも成る子供をモチーフにしたテキスタイルや水丸さんのお習字を額装したりと、リラックスした中にも完成度のある展示、そしてシリーズ第二回目はグッズの為のオリジナルなモチーフを普段仕様の陶器やTシャツに用いたギャラリーとしても初の試みだった展覧会を開催しましたが、それら二回の展示の直後に画廊は急に現在の場所に移転する事になりました。
既に、作品も人々も当時の小さな空間ではみ出してしまっていたのを見かね、大家さんの早川さん、不動産屋さん、このギャラリーの以前の画廊オーナーの方の三名が一緒に現在の場所への移転へと導いて下さいました。
自分自身、突然広がってしまう空間のキャパシティーに対応するのがすごく難しかった事を、今でも思い出されます。
そのような状況の中での、水丸さんのこのシリーズ3度目の個展が「MIZUMARU CALENDAR」でした。
通常の作品としておなじみの、細い線で描かれる卓上のモチーフや水平ライン等とで構成される美しく格好良いスタイルの作品とは意を異にする、太いラインによるキュートなキャラクターたちの登場に、ご覧になる方々も新鮮な印象をお持ち下さいました。
水丸さんも画廊空間が広がった事で、大きな画面に大らかなキャラクターたちを生み出して下さったのかも知れません。
あらためて過去を振り返りますと、SPACE YUIは、本当にたくさんの水丸さんとの展覧会の思い出に溢れている事に気付かされます。
毎年続けて来たシルクスクリーン作品の制作も、敢て意識的に続けて来た訳ではございませんが、30年以上続けて参りますと自然に種類は数多くなります。
作品の種類は多いのですが、水丸氏が版画家ではない事からエディションはどの作品もたいへん数少なく、本当に貴重なものと感じております。それでも、生前の水丸さんは、常に若い方々へ向けて、できる限り低めの価格での提供を求めておられました。画廊でも勿論異存なく、常に水丸氏と同じ感覚で歩んで参りました。
水丸さんとの歩みはまだまだ続いていて、新しく水丸さんの作品に触れられた若い方々、そして従来のファンの方々へと、お届けしきれていない才気に溢れた力をご紹介する機会が待たれます。
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